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原作 ORIGINAL

『きみはいい子』映画化に寄せて - 中脇初枝

こどもをめぐる事件の報道が後を絶ちません。
これらの報道は、とても悲しい結末を伝えるものばかりです。
そんな報道に接するたびに、こんな悲しい結末にならない道はなかったのだろうかと考えました。そして、小説でなら、そのような道を辿れるかもしれないと思いました。
もちろん、つらい思いをしているこどもたちはかわいそうで、まず、救われなくてはいけません。けれども、こどもにつらい思いをさせている人も、自分ではどうしようもなくて、その人なりのつらい思いを抱えているのではないでしょうか。
そんなとき、まわりの人が、だれかのそのつらさに気づいてくれたら。つらい思いを抱えただれかが、気づいた人に寄りそってもらえたら。
わたしは、高知の四万十川のほとりで、近所の人たちから「べっぴんさん」と呼ばれながら大きくなりました。わたしがべっぴんさんだったからではありません。その当時、あの川べりの町に暮らしていた女の子たちは、みんなそう呼ばれ、近所の人たちに見守られていました。そのときはそれがあたりまえのことだと思っていましたが、今になって、なんて幸せなこども時代だったのだろうと気づきました。
すべての人がかつてはこどもだったことを思うとき、すべての人に、そんな、ささやかでも幸せなこども時代があってほしいと願います。
難しいテーマなので、初めは映像化されることに不安もありましたが、呉美保監督は、わたしが小説に込めた思いをしっかりと受けとめてくださいました。そして、そばにあっても見えていないものを、俳優のみなさん、それからこどもたちが、すばらしい演技で、目に見えるものにしてくださいました。
ひとつの町には、障碍を持つ人も持たない人も、こどもも年を取った人も、いろんな人が集まって、そこで同じ時間を過ごしています。たとえお互いがお互いを知らなくても、思わぬところでだれかを支えていたり、だれかに支えられているかもしれない。そんな可能性がこの映画では描かれています。
今日もきっと、どこかで泣いているこどもがいます。
でも、わたしたちは無力ではありません。
世界を救うことはできなくても、まわりのだれかを救うことは、きっと、だれにでもできると思うのです。
観終わったあと、そう信じられる映画です。
映画にしていただいたことで、たくさんの方にそう思ってもらって、今度は、観てくださったあなたが、あなたの暮らす町の主人公になってくださることを、心から願っています。

中脇初枝/原作

1974年生まれ。高知県中村市(現・四万十市)出身。高校在学中の1992年、「魚のように」で第2回坊ちゃん文学賞を受賞。2012年に発表した「きみはいい子」が第28回坪田譲治文学賞を受賞し、第一回静岡書店大賞ならびに 2013年本屋大賞第4位に輝いた。そのほかの小説に「祈祷師の娘」「みなそこ」などがあり、「わたしをみつけて」(文庫版は2015年6月5日発売)は、「きみはいい子」と同じ町を舞台としている。「こりゃまてまて」など絵本や児童文学作品も数多く発表している。